お知らせ
土地境界 最新測量技術で画定急ぐ
被災地では、土地の境界線が画定しておらず、集団移転など復興に向けた動きに影響が出ている地域があります。
こうした土地の境界線があいまいな地域は、被災地に限らず全国的にみても全体のおよそ半数に上るため、国土交通省は、最新の測量技術を導入するなどして、境界線の画定を急ぐことにしています。
津波に襲われた仙台市若林区の荒浜地区では、市が、集団移転のため、震災前に住んでいた土地を住民から買い取る計画ですが、土地の境界線を画定させる地籍調査が全く行われていない地域のため、測量に時間がかかるなどして、復興に向けた動きに影響が出ています。
このため国土交通省は、カメラやGPSなどを搭載した車を走らせながら、自動的に地形データを解析する最新の装置を導入して、地籍調査のスピードアップを図る新たな取り組みを始めました。
荒浜地区のように、境界線があいまいな地域は全国に広がっていて、国土交通省によりますと、地籍調査を終えた地域は全国の50%にとどまり、都市部では22%とさらに低くなっています。
地籍調査は主に市町村が行いますが、この状態が続けば、大規模な災害が起きると、ほかの地域でも、復興に向けた動きに影響が出るおそれがあります。
このため国土交通省は、車を使った最新の測量技術をほかの地域にも導入したり、大地震が予想される東海地方を中心に、国から市町村に補助する予算を増やしたりして、境界線の画定を急ぐことにしています。
3次元で解析する新技術
国土交通省が今回導入したのは、「モービル・マッピング・システム」という装置で、乗用車に6台のカメラと4台のレーザースキャナー、それに3台のGPSを搭載し、走りながら地形データを3次元で解析することができます。
誤差10センチ以内の正確な測量が可能で、荒浜地区では、道路と住宅地の境界線を調べるのに使われています。
測量初日の17日は、時速30キロから40キロで被災した住宅地の道路を走り、委託した測量会社の技術者が後部座席に座って、地形データが順調に作成できているか確認していました。
通常は、複数のポイントを移動してそれぞれの場所で三脚を立て、測量を繰り返しながら境界線を画定させるため、国土交通省によりますと、今回の装置を使えば、従来より早く測量することができるということです。
全国の地籍調査の状況
国土交通省のまとめによりますと、土地の境界線を画定させる地籍調査の進み具合を示す進捗(しんちょく)率は、ことし3月現在、全国平均で50%にとどまっています。
都道府県ごとに見ますと、10%未満の自治体は、京都府の7%、大阪府と三重県の8%で、20%未満は、奈良県の11%、愛知県の12%、神奈川県、千葉県、福井県、滋賀県の13%、石川県の14%、岐阜県の15%となっています。
一方、最も高いのは沖縄県の99%で、次に佐賀県の97%、青森県の92%などとなっています。
国土交通省地籍整備課の佐藤勝彦課長は「震災への危惧があるので、地籍調査をどんどん進めなければならない。まず、道路などの公有地と、民有地の境界線を画定させる調査を国が直接、進めていきたい」と話しています。
土地の境界線画定はなぜ必要か
土地の境界線を画定させる地籍調査は昭和26年に始まり、一筆ごとに境界線を決め、面積を正確に測ったうえで各地の法務局に登録され、土地を売買するときの基本情報になります。
費用の9割は実質的に国が負担するものの、調査は主に市町村が行うため、限られた予算の中で、進み具合は市町村によってバラツキが生まれています。
特に都市部では、権利関係が複雑で、境界線を巡って住民同士がトラブルになるおそれがあるため、調査が進まないのが実情です。
地籍調査が行われていなくても、法務局に保管された古い公図を基に交渉を始め、契約前に測量を行い、境界線や面積を画定させれば、土地を売買することはできます。
しかし、災害時には、建物が津波で流されたり地震で倒壊したりして、すぐに境界線を復元することができないため、住宅の再建や道路の復旧など復興に向けた動きに影響が出かねません。
国土交通省によりますと、平成7年の阪神・淡路大震災では、地籍調査が行われていないためトラブルになったケースが相次いだほか、平成16年の新潟県中越地震では、用地買収にかかる時間が、地籍調査を終えている土地では2か月だったのに対し、終えていない土地では1年かかったということです。
(2012/7/22 NHK NEWS)